真新しい靴で
2024/10/11
朝方、ひやりと冷たさが吹き込む時季となってきました。「これはどうや、」「こっちもかな、」と疑問符が度々ぽつりと出ては消えの呟きが聞こえてきました。「どうしたん、」と祖母の部屋を覗き込むと、ずらりと数々の衣服を出して試着をしていました。
私の後ろから母が、「寸法が大きくなったものは手放すように言うたんや」との声。「あぁ」と納得しました。「近い時に寸法のあった衣服を購入したい」と祖母が母に頼んでいたのを思い出しました。
「今日行くの、」と聞くと「靴も欲しいんや、ぼろぼろになってきたし」と祖母がひとこと。感染症が流行りだしてから祖母が買い物に出る回数は以前より少なくなり、量販店なども行く機会がありませんでした。幾年も経た靴は少し傷んできたようです。
「瀞愁も見てやって」「そうや、来て」と母と祖母から推薦されたのですが、人の多い場所は躊躇います。思案してると「お願いや」と祖母から押しのひとこと。これは行くしかなさそうです。そして【緊張緩和剤】は必須です。
商業施設には久しぶりに赴きました。改築されてどこになりがあるかなかなか見出せません。若年層向けや「60代からの~」と画面から音声が聞こえます。「90代って張り紙はないなぁ」と祖母が言うので「似合えば、どの衣服でも良いんだよ」と話しながら探します。
やっと着心地の良さそうな衣服の展示場がありました。寸法を確認してから「試着が肝心やよ」と脱ぎ着するのが億劫そうな祖母に念を押すと「はいはい」と衣服を持って試着室へ、着替え終わり見せてもらうとぴたりと合っていたので「これ良いね」「そやね」と母と二人で頷き合います。鏡を見て納得している祖母の顔を確認し、安堵しました。
靴探しはかなりの時を要するかと思われましたが「これ軽い、これにする」と即決の一声で、祖母が求めたものは思いの外さっぱりと探し終わり、満ち足りたようです。
「何回履けるか分からんけど、」という祖母に「10年は大丈夫でしょ、いや20年かな、」と軽く返すと、カラカラと笑い声で「ばけもんやが」と祖母も軽く答えます。「人生100年時代やよ」とどこかの広告のようなことを真剣な様子で母が説きます。
「そやね、お祖母ちゃんたくさん自家用車で歩かんなんよ」と自分のことを棚に上げ言うと、案の定「あんたもや」と二人に切り返されました。
改めてこれからも、どこへでも行けるよ。