深緋、輝くその先は
2025/05/24
無農薬・有機栽培で成り立つ【となりの畑】は母の大切な居場所です。今年も種から育てた【こどもたち】と称した野菜の苗が幾種類も育つ環境が整っています。畑にとっての害虫や【狩師】の存在にも要注意ですが、囲いをして何とか守ろうとしています。
この時季がやって来ました。緑する畑の中で満面の色をした赤が綺麗です。【苺】が採れ始めました。最盛期となりつつあるこの日、いつもと違う雰囲気を漂わせています。
「綺麗に焼けたね」「ちょっと凹んだかな、」と話しながら母が棚から取り出したのは前の日に焼いたスポンジケーキです。そして今日は生クリームと【苺】で飾り付けを行います。
母が大切に【苺】を見守り育てているのはこの苺ケーキを作りたいがためなのです。母は【苺】のケーキが一番好みで、食したいがために【苺】自身で育てお手製のケーキを作るのが、毎年の愉しみなのでした。もちろん私たちのことも考えてのことですが。
スポンジケーキを横一線に平行に切り、生クリームと【苺】を間に挟んでいきます。外側と真上にはクリームをたっぷりとのせ【苺】を並べ始めます。
「今日誰の誕生日や、」と父が真面目に揶揄いますが「苺が採れたお祝いの日や」と誇らしげに母は答えながら【苺】をどんどん並べていきます。重量感のある苺ケーキの完成です。
「今日お姉ちゃん来れるかな、」と母は姉に連絡を取ろうと【携帯端末】を取り出しました。休日に合わせて【苺】を採り、ケーキを作り上げたのですからもちろん姉たちにもお福分けしたいのです。
「2人分でいいやろ、」と母がまあるいケーキを眺めながら私に聞くので「滅多にない機会なんだから半分あげたら、」と作ってもないのに気軽に答えます。「そうやな、時機はこれから難しいしな」と真剣に思案しながら、まあるいケーキを眺めます。
【苺】の最盛期にお手製のケーキを作り、手渡せる。こんなに仕合せなことはありません。母の幸福のお福分けは家族みんなで有難くいただくことになりました。