少数びと、ひとり
2024/06/03
久しぶりに外に赴きました。外出と言っても、食料品店へ行く母に喋るお供として付いて行き、買い物の間は車で待機という名の【外出】です。荷物持ちにもなり得ません。
玄関から先へ出るのも珍しいので、久しぶりに【裏庭珈琲茶会】以外の時間帯に外の風に当たります。前に蕾だった花が咲き綻び、その活力に憧憬の念を抱きながら車に乗り込みます。【緊張緩和薬】を片手に握りしめながら、助手席の窓から珍しそうに眺めます。
水稲の鴨の羽色と大麦の透きとおった淡黄を交互に見分けます。日の入りにはまだ時がありますが、少し傾いた陽射しにふわっと淡黄の色合いが仄かに光って、大麦が柔らかい感触なのではないかと錯覚させます。
母に「家の前の花がいつのまにか満開だね」と驚きを話すと「もっと外の空気を吸わんなんね」と心憂いの顔で返されました。ほおって置くとひと月は外に向かない時もあるので、こうして車の中でも良いからと連れ出してくれているのでしょう。
買い物に出向いた母の後姿を見ながら「食料品店にも慣れないといけない」とふっと頭に流れ、でも色彩が目に入る量が多いと気が落ち着かなくなり、人の多さも相まって【過呼吸】になるかもしれないと思うと竦んでしまう自身の不甲斐なさが際立ちます。
席に座ってじっとしていると前窓から食料品店へ向かう人、出てきて荷物と一緒に車に乗り込む人とたくさんの行き交う人々の姿があり、眺めるとたくさんの人生があるんだと改めて実感します。
それぞれの地域・世界で朝を迎え、昼を過ごし、夜に休む、その逆の生活の人も然りですが、数えきれない人が歩んでいる道です。
夕暮れ時の買い物を済ませようと、皆足早に通り過ぎていきます。その生活空間の営みを垣間見た気がし「今宵の晩御飯は何だろう」とそれぞれの暮らしを想像し、最後に想うのは我が家の晩御飯を囲む皆の姿でした。
小さな世界に暮らし偶に広い外界に赴き、蕾だった花が咲いていたり、時季を感じさせる空気の風合いや人々の生活の波を受け、五感がふわりと刺激された日になりました。
自身の加減が落ち着いた時は荷物持ちとして食料品店へ母と一緒に、と帰る車の中で【緊張緩和薬】を握り小さく誓いました。