彩りの宝庫
2024/06/17
「瀞愁、台持ってきてあれ取って」と祖母の声。「あれ、」ちょっと既視感を覚えました。終わったはずでは、と頭の中で巡らせながら、声の主の居場所を探しました。
祖母の自室ではなく南側の縁の棚の前で上を指差している祖母を見つけます。「玄関の【額縁】、変えんなん」との答えに、もう季節が移り変わるのか、と近頃の気温の変化同様に次節への巡りの速さになかなか身体も心も追い付けていません。
「上から順番に取ってみて」と祖母が指差していたのは幾年も経っている浅めの紙箱です。何箱も積みあがっているので、箱の中身は何が入ってる確認しなければなりません。いや、箱の中身は【額縁】なのですが、その【額縁】に入れてあるのは昔日の【ちぎり絵】の作品たちです。
祖母は幾十年前は【ちぎり絵】を友人方と習っていました。作品は花や果物、風景と様々な季節を織りなしています。四季それぞれの作品を飾るのが、祖母の愉しみのひとつです。春の花を飾っていましたが、次は初夏の作品を飾りたいようです。
「まず、これね」と【額縁】の入った箱を「重いから気を付けて」と念を押しながら祖母へ手渡します。「これは何やろ、」と上から順に次々と手渡し、祖母が中身を確認します。
初夏の【額縁】が見つかれば良いのですが、「あぁ、雪やった、冬やな」「これはナス、もうちょっと先や」とお目当てのものがなかなか出てきません。【柿】に【椿】に【白粉の山々】たくさんの祖母の力作が箱から封を開けられます。
懐かしさに目を細め、また仕舞い込まれる作品たち、そしてまた封をされ出番を待ちます。
ようやく【夏の野山風景】の【額縁】を見つけ「これにしよう」と祖母も納得し、作品展覧会はお開きとなりました。紐を括り直し、額を拭き、玄関に落ちないように備え付けます。
久しぶりに出合った作品たちはその季節を留めてくれています。